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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页

青空文庫

製本屋さんは惘れて返事も出来なかったであろうが、後年、このお母さんの祈りがかなえられ、堀辰雄の生涯の書物はどれも凝った美装の書物ばかりであった。そしてそれらの書物が出版されるたびに、堀の書斎の隅の方に何処からか現われて来る一人の老女が、その一冊を手にとって恰もそれに読みふけっているふうであり、堀はその頁をかえす音が、書物の郵送の包紙がひとりでに刎ねて皺を伸ばしている音だと思っていた。

堀の母は勿論、辰雄の本どころか、印刷された一篇の物語すら読まないで亡くなっていたが、製本屋に頼んで置いたから、きっと美しい本を作ってくれることに疑いを持たなかった。だから、書物が頻々と出版されるたびに、堀は母のその頼みに行ったことを思い出し、一冊だけは茶の間のすみの方か、書斎の襖の入口にいつも彼は置きわすれていた。そのみじかい時間のあいだに書物に手をかけた老女が愉しげに頁を返し活字を趁うて日脚を縫いながら読んでいた。

堀は本を読むと、その本を畳に伏せてわすれていることが度たびあったが、いつも一冊分を一包の反古の中にわすれていることはなかった。しかもその寄贈先の署名をしている間に、一冊分だけ自分用として取って置くはずの物まで、紛れこんで友人への署名をしてしまっていた。