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おうぎの

扇野

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页

青空文庫

三

栄三郎はごろっと仰反けに寝ころんだ。すると、すぐそこに、おけいのいるのをみつけた。いつのまに来たものか、うしろへ来て立っていたのが、仰反けに寝たので初めて見えたのであった。

「――なんだ、吃驚させるじゃないか」

「ごめんなさい」おけいは恥ずかしそうに眼を伏せ、すぐにその眼で栄三郎を見た、「あんまり閉じこもってばかりいらっしゃるので心配になったんですの、そんなに根を詰めていらしってもしようがありませんもの、たまには気を変えにいらっしゃるほうがいいと思って」

「ほう、気を変えにね」

「それは此処は田舎ですから、お江戸のようにはまいりませんわ」とおけいは云った、「でも田舎には田舎の面白さもございますでしょ、賑やかに遊んでいらっしゃれば、少しは御気分も変るかと思うんですけれど」

「これは、これは」

「ほんと、いってらっしゃいましよ」おけいはまじめな顔で云った、「加茂川のこちらの町尻に、新水というお茶屋がありますわ、そこは父がひいきにしている家ですから、そこへいらしって、そうね、おつるという芸妓をお呼びになるとよろしいわ」

栄三郎はつい笑いだした。

三

「あら、――」とおけいは睨んだ、「あたし心配だから申上げているのに、なにが可笑しいんですか」