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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

弥兵衛も、舟を渡しながら、舟の上でたずねた。

「於通どの。いまの男は、何者じゃの」

「乳母の息子で、それはそれは極道な、困り者でございます」

「そなたの乳母の子か。――すると、乳兄弟じゃないか」

「ええ、そうです」

「それが何で、そなたへ、あんな乱暴を働きおったか」

「金をくれいの、一しょに、都へ行こうのと、つねづね、難題ばかり申すのです。ところへ私が大垣のお城へ姿を見せたものですから、いい事にして、あとをつけて来たのでございましょう」

弥兵衛は、心に、おどろいているふうだった。

大垣城内での、物ごしといい、秀吉の手紙を一同に読んで聞かせた態度といい、いまの乱暴者にも、すこしも事に動じない容子が、弥兵衛には驚異だった。

(これは風変りな婦人だ。いや、まだ小むすめだが、近ごろの若い女子とは、こうしたものか)

つくづく感心したような面持である。感心といっても、意外な感を持ったにすぎないが、弥兵衛はひそかに、

(主君も、妙な女性に、興味をおもちになるものだ……)

と、秀吉のすきごころに、思わず微苦笑をおぼえたものだろう。かれは、秀吉の妻の妹の良人。内輪の縁者だけに、秀吉のその道にかけてのクセは、たれよりもよく知っていた。