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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「もどりました」

浅野弥兵衛は、帰陣するとすぐ、秀吉の前へ出て、大垣城の遺族たちのもようを、こまかに復命した。

於通も、共に、

「みな、涙にくれておよろこびでございました」

秀吉の手紙が、いかに勝入の遺族たちをなぐさめたかを、こまごま云いたした。

「よかったよかった」

秀吉も、心の重荷が下りたような顔をした。人のよろこびを喜ぶ性情のつよい彼は、人のかなしみにも、ひとしい同痛を抱くらしかった。

「弥兵衛。そちは、休め。それから、秀次をよんでくれい」

「かしこまりました。しかしこの戦場、わずかな所へ、使いに参ったぐらいで、休息などをいただいては」

「まあよい。小牧の敵も、ここ数日、のびのび手足を伸ばしておるあんばいだ。退がって、くつろぐがいい」

まもなく、弥兵衛に代って、三好秀次が、ここへ来た。

「秀次。お許はな、兵をまとめて、明日から大垣の留守番にゆけ。大垣の家中は傷手も多く、残った老母や女房どものほか、三左衛門輝政と、末子の長吉だけでは、守備もさびしかろうほどに」

「はい。……」

秀次は、何か、もっと云いたげであったが、依然として、まだ叔父秀吉の気色がわるいので、命をうけると、そのまま退出した。