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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
よく寝て、心支度、おこたるな」
と、ひそかに云い渡した。
あくる日は、五月一日。
きょうこそ大決戦が行われるものと予期して、昨夜来、準備おさおさ怠りなかった諸軍は、やがて、陣前に秀吉の姿を見、その命ずる令を聞いて、呆然とした。
「大坂表へ立ち帰るぞ。諸軍も順次をたてて引きあげい」
と、いうのである。
「黒田官兵衛、明石与四郎の二隊は、二重堀、田中などの兵をひきまとめ、青塚のとりでに収めよ」
また、次の指令が出た。
「日根野兄弟、長谷川秀一は、中軍につけ。しっぱらい(殿軍のこと)は、細川忠興、蒲生氏郷のふたりがせよ」
ゆるぎ出した総軍六万余。
西へさして、背進を開始したのである。これが、夜明けの日の出ごろ。
なお、べつに、楽田には、堀秀政を、犬山城には、加藤光泰をのこし、そのほかの兵はすべて、木曾川を渡り、かがみヶ原を通過して、大浦へはいった。
この突然な総ひきあげは、諸将にとって、秀吉の真意が、どこにあるかを、疑わせた。
「ほんとに、おひきあげかの?」
と、途々も、ささやきあい、
「まったく、われらの凡慮では、おし測れぬものがある」
と、嘆じさせた。
だが、秀吉の馬上の顔は、この日、いつもより一そうさばさばとしていた。