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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

――こらえているのだ。

秀吉の方こそ、何か、肉親の秀次にたいして、一喝、云いたいところらしいのを、抑えておられるにちがいない。

於通の、かしこい眼は、そばでそう眺めていた。

案のじょう、秀次が立ってゆくうしろ姿を見ていた秀吉の顔には、苦々しげなものが、にじんでいた。

於通は、それと見て、

「殿さま。碁はいかがでございます」

と、すすめた。

「――囲碁か」

と、気を直し、

「持ってこい。いつぞやは、負けつづけたが、一手、思案をかえたぞ」

と、さっそく、盤にたいして、烏鷺を闘わせ始めた。

白い石、また、黒い石が、点々とふたりの構想を描いて行った。めずらしく、秀吉の石に、ねばりがあり、於通も勝つになかなか骨が折れた。

「きょうは、妙な日です」

「なぜじゃ」

「殿さまの石が、ちがって参りました。こんなに、お強い殿ではなかったのに」

「そう、思えたか。よし」

石を投じて、その日は、ただ一局でやめてしまった。

何思ったか、秀吉は、

「大浦に、砦を築け」

と、急に、積極的な命令を出し、つづいて翌々日の四月晦日、

「明日こそは、家康を降すか、秀吉がやぶるるか、一期の大決戦をこころみん所存である。