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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

かれのそばには、碁相手の於通が、やはり馬上の男姿で共に手綱を打たせたが、時折、その於通と、平日のように笑いばなしなどしていた。

「於通。きのうのわしの碁が、常よりも強かったわけがわかるか」

「さ。わかりませぬが」

「なんでもない。ふと、気をかえる――ということを考えついただけのことじゃ」

「気をかえる……? と仰せられますのは」

「故信長公は、物事に、決して固着せぬお方であった。万象はつねに生々流々として動いておるもの。それを、人間はつい、動かぬもの、動かしがたい現実と考えて、固着する。……悪い病だと仰っしゃるのだ」

「むずかしいおはなしですこと」

「いや、やさしい。……それを難しゅう観る、考える、そこに病が生じる」

「碁のおはなしではないのですか」

「同じじゃよ。……小牧山はおもしろい碁であった。だが、家康も固着し、秀吉も固着し、両軍、ああした形となっては、これは、抜くにかぎると、ふと思いついた」

「抜くとは」

「息をよ。……そして、気をかえて、出直すのだ。そのあいだに、自然なる時のうごきが、新しい局面をひらいてくれよう」

きき耳たてて聞いていた前後の諸将は、

「なるほど」