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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
ようやく、芋ガユや粟を食うていたものだったぞ。――そのおかげで、わしが十八歳の折、今川家から放たれて、浜松へ帰って来たときには、そうして長年の留守に蓄えておいてくれた物が、兵糧倉、武器倉に、国守るほどはあって、他日の驥足をのばすことが出来たのだった。……そのとき、鳥居忠吉が……もう八十こえた老人じゃったが……わしの手をひいて、倉の前に導き、中を指さして、若殿……といったときの言葉は今もわすれかねる。その頃を思えば、わしも近頃は、だいぶ気が奢りすぎて来たぞよ。忠吉に、申しわけがない」
かえりみれば、家康の幼少から、壮年期の大部分は、忍の一字につきる半生だった。
かれは、忍を守って人と為り、忍を持して、強国の間に生き、忍に剋って今日の位置を築いた。消極的な忍ではなく、積極的な大希望を遠くに期している忍であった。――おそらく、これからの後半生も、その特質を変えることはあるまい。
特に、近頃は家臣たちにも何かにつけて、忍耐ということを説いた。尺蠖の縮むは伸びんがためという意味を悟らせようと努めていた。
――というのは、今春来の不平不満は今なお鬱勃としていて、対秀吉感情は少しもあらたまらず、上方筋の情報を耳にすれば、忽ち、岡崎、浜松にその反撥が露呈して、