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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「……では、数正どのには、どうしても、思い止まるわけにはゆかぬと――仰せなのじゃな」

「もとより、住み馴れたこの郷土と、若年よりかしずいて参った家康様にお別れ申すのは、忍び難い辛さではおざるが……。事、ここにいたっては」

「うウむ……。さまでに、思い極められたなら、もはや伝右衛門のお止めだても、無意味でござろう。お止めいたしますまい」

初鹿野伝右衛門もついにそう呟いて――

「したが、数正どの。たくさんな御眷族を伴って、いったい、これから先どこへ浪々の晩年を、落着かれるおつもりか。お行く先を、お聞かせ下さい」

「…………」

「御迷惑なら、かまえて、伝右衛門、他言はいたさぬ。別れても、折には、お便りも申し上げたいと存ずるので」

「伝右」

数正は、あらたまった。

「こたえる以上、おぬしに対して、うそはいえぬ。まこと、数正は、大坂表へ立ち越える所存なのじゃ」

「げッ。大坂へ。――あの、秀吉公へ、身を寄せらるる思し召しか」

伝右は、耳を疑うように、さっと、顔色を変え、とたんに、座を三、四尺、跳び退いていた。

席をひらいた途端、伝右の手は、無意識に、うしろへ遠く置いておいた自分の刀へ、左手を伸ばしていた。