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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

数正も、はッと、身じろぎを示し、

「伝右ッ。何とする」――と叱った。

「知れたこと。今を限りに、石川伯耆守を、返り忠の謀叛人と見ていうぞ。――主君の信をうけて、岡崎城の城代を勤める老臣が、大坂方へ寝返り打って立ち退くのを、たれが、目に見て、見のがそうや」

「待て、伝右。おぬしを、無二の友とおもえばこそ、正直に、左様には打ち明けたのじゃ。……数正に、むごい思いを、させてくれるな。ここは、見ぬ振り、知らぬ振りして、立ち帰られい」

「いや!」

と、伝右は、きつく顔を振って、「――人も知る伯耆守数正ともあろう者ゆえ、たとえ岡崎は去っても、さだめし、生涯を浪人して、つつましゅう武人の晩節を守ることかと……、今の今まで、信じていたのが口惜しい。……ほ、本心かっ、伯耆守」

伝右は、顔に、痛涙を描いて、しかも右手は、刀のつかを、握りしめつつ、つめ寄った。

数正のすがたは、燭を横に、惨として、うつ向いたままだった。

――自分の深い気もちは、この一徹な友にも分っては貰いにくい。

大坂へ出奔しても、自分は決して、秀吉に寄って、身の栄達をはかろうなどとは――ゆめ、思いもしていない。