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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「装備のため、ちと駈けおくれたが、まだ、合戦にもいたらぬようで……」

信雄は、戦闘だけが、戦争だとおもっている。家康の顔を見て、間の悪さもあったのだろうが、床几につき、初夏の真っ青な海へ目をそらした。

「やあ、わざわざ、お出ましには及ばんものを」

家康は、わざと、云ったにちがいない。しかし、信雄はことば通りうけて、

「いや、この方面から、敵に上陸られては、おたがいの間も、遮断される」

と、一応の見解をのべ、そしてまた、

「滝川一益などは、武門の風かみにもおけぬ奴ではある。伊勢の小郷士より、父の信長に取り立てられ、柴田、丹羽らと並ぶような地位と恩顧を給わりながら……恩義もわすれて」

と、罵り出した。鳥羽の九鬼嘉隆も、忘恩の徒である、人でなしであると、家康に、理由を聞かせるのであった。

家康も、信雄の心理を誇大に利用して、天下にむかい同様な悪名を秀吉にかぶせ、もって、小牧に臨む徳川方の戦争名分とはしたのであるが――この頃では少々、信雄の不平も、聞き飽いている。

恩ということ。しかも、自身がほどこしたものでもない父の徳望を、この御曹子は、すこし過大な価値におもい込みすぎているのだ。