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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

――思うに。

実はかれも、こんな場所でなければ、ハゼも釣ったり、裸足で土も踏んでみたかったであろう。かれにはいつも、童心がある。その童心が、田舎びた地方へ来ると、よけいに、幼少の腕白ごころを駆りたてる。

この川、一歩こえれば、尾張の土である。尾張中村の土のにおいが、秋の日の下に、かれの嗅覚をしきりにつく。

(いちど、中村へも、帰ってみたいな)

人知れず、そんなことを思いながら、馬をめぐらして、陣門へもどって来た或る日のこと。

富田知信と――津田藤三郎信勝のふたりが――使い先から帰って、かれの姿を待ちわびていた。

「お! 帰ったか」

秀吉も、この二日ほどは、二人の吉左右いかにと、独りその返報を、案じていたところらしい。

陣門に、馬を捨てるや、かれは、いつになくあたふたと、

「こっちへ来い」

迎えに出た二人を、自身で引いて、たれも入れない木立の中の一幕舎へみちびいた。

木立の外には、数名の槍手が目をくばって、見張っている。幕いっぱいに、桐の紋のゆれているその中には、秋の木もれ陽と、鳥の声しか、洩れなかった。

「どうじゃった? 三介どの(信雄のこと)の御返辞は」