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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

小心な人の心を迎えるには、まず小心でなければならぬ――としているものか、いつもにもない謹直さであった。

ほどなく。

信雄も、時刻をたがえず、彼方からその一群の騎馬を見せて来た。

「おお、来ておるな」

と、信雄も馬上からすでに川原の人影を見たのであろう。

かれは、左右の扈従の将に、さっそく何か話しかけて、秀吉のすがたに、眸をあつめて来る様子だった。

川原に待っていた秀吉も、

「や……。お見え遊ばした」

と、ひとり云って、すぐ、床几から立った。

それと、同時に、信雄も彼方にあって、駒を止め、ひら――と地上に降り立っていた。

(秀吉が、どんな態度で、自分に会うか)

信雄には、まだ多少の危惧があるらしい。

かれは、従えて来た扈従の武者群を、左右にひらかせ、その中央に、武威をこらした盛装に鎧われた自身を置き――きっと、此方を見まもっていた。

秀吉。

それはかれが昨日まで天下にむかって極悪の兇首、忘恩の人非人と、鼓を鳴らして、家康とともに、その罪をかぞえた敵である。

いま、その秀吉の申し入れをゆるして、ここで会見するとしても、さて、秀吉がどんな眼ざしで、どんな底意をいだいて、自分を俟つかは――信雄として決して安易なここちではあり得ない。