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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
わずか半月ぶりで接した光秀に、なぜか今度はそれらの内輪の者までが、何となくあらたまっていて、窮屈に覚えたが、相変らずなのは長閑斎であって、
「このたびは、天下様にお成り遊ばして、われらはまるで、夢かとしか思えません。瓜や茄子が、急に花園の壇に上されたようなもので、御眷族の端たるわれらも急にお行儀をあらためております。末々公家衆などとのお交際も繁くなれば、瓜や茄子も冠して厳かにおらねばなるまいと惧れましてな。――いや正直を申せば、先の短い愚老などには、迷惑やら仕合せやらで」
などと軽口を弄して、その楽天振りに少しの変化も来たしていない。明智一族中、この老人だけは、べつな暦でも持って暮しているようである。
どんな無用人でも、その所を与えれば、世に無駄人はいないとよくいう光秀は、日頃、従兄弟にむかっても、この老人を祝して、
(左馬介の家庭には、あの屈託のない年寄がおるので、何ぼう奥が明るいか知れぬ。家に後顧がなくてよい)
と、称えていたものだが、今度の一泊には、長閑翁と戯れあう子らの嬉々たる声もうるさい気がした。
――明けると早暁に、白河越えを経て、京都へ向っていた。