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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

小栗栖

もちろんこれは後の調査によるものであったが――明智軍の死者三千余人、秀吉方の死者三千三百余名、負傷を加えれば算を知らぬ数であったという。以て、彼の意気にも劣らなかった明智勢の気魄も知るべく、しかも、敵の半数に近い寡兵と、不利な地に立っての戦いであったことを思えば、光秀の敗北は、決して世の嗤い草となるような敗北ではなかった。

小栗栖

淡墨のような雲の裡に、水無月十三日の月が滲んでいた。

離ればなれに先へ一、二騎、また少し後から数騎の武者が影をかさねて、点々十三騎ほど、淀川の北から伏見方面へ落ちて行った。

「ここは何処の辺りか」

やがて道の暗い山のふところに入ると、光秀は、比田帯刀則家を顧みてたずねた。

「大亀谷でございましょう」

帯刀の面にも、続く数騎の影にも、梢を漏る月の斑が、青い潮光のようにこぼれていた。

「では、桃山の北を越えて、小栗栖から勧修寺道へ出るつもりか」

「御意。――夜の白まぬうちに山科、大津近くまで辿りますれば、もうお案じはございませぬ」

――と。光秀の少し前をゆく進士作左衛門が、ふいに駒を止めて、

「叱ッ」

と、手を振った。

光秀も止まった。