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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

金瓢押し

「あッ。――鞍へ、鞍へ。固くおすがりになっておいでなさい。矢はそれています。額のお傷は浅手です」

「だれだ。わしを支えたのは」

「藤三です」

「舎弟か――伊勢与三郎はいかが致した」

「はや、討死を遂げられました」

「諏訪は」

「諏訪どのも」

「伝兵衛は」

「――また、敵に囲まれましょう。お供いたしまする。鞍の前輪に、身をお伏せなされませ」

伝兵衛の生死には触れず、藤三は兄を乗せた馬の口輪を把って、乱軍のなかを一散に落ちて行った。

金瓢押し

相搏つ味方の咆哮は、申の刻(午後四時)から酉の下刻(七時頃)までつづいた。

久我畷から円明寺川に沿う北野一帯は、この咆哮のうちに、とッぷり暮れた。

「――思いのほか手強い」

と、秀吉をして、つぶやかせた程、明智勢の抗戦も熾烈を極めた。

が、何としても、この総決戦を展く午まえのうちに、明智方が、天王山の一高地を敵手に委ね、その山之手支隊の大半を失い、かつまた、松田太郎左衛門、並河掃部などのこの手の大将を早く亡っていたことは、決定的な敗因をすでにそのときに約したものというほかない。

機を見るに敏な秀吉は、この薄い線を衝いて進出した。まだ赤い斜陽が円明寺川を染めているうちに、自身の率いる予備隊一万をのこらず押し進めて、上流から敵を圧縮したのである。