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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
二は、下鳥羽に帰陣して後も、なお淀城の修築などを命じていたほど――秀吉の進撃に対して時間的な過誤を抱いていたことである。
また、その三としては、根本的な彼の肚の問題になる。つまり積極か消極か。攻勢をとるか、守勢を選ぶか。御坊塚へ進出する直前まで、彼の大方針は多分に、岐路を決していなかった。
これは、老臣斎藤利三などの意見も大いに彼を迷わしていたといえよう。利三は、使いをもって二度まで、光秀にこうすすめていたのである。
(ここの御一戦では、どうしてもお味方の不利と考えられます。如かず、秀吉の鋭鋒を躱して、ひとまず坂本まで御退陣の上、江州その他に散在しているお味方の勢を一つに結束し、不敗の陣容を確とかためた上、敵をお邀え遊ばすが、ここにおいては、唯一の良策ではございますまいか)――と。
斎藤利三の献言は、決して理由なきものではない。
一万六千と数えられる明智勢も、その質を見ると、内二割は、山城新附の兵である。これは子飼の士卒にくらべると、断然見劣りがする。あちこちで新たに糾合された未訓練の兵であるから、弱いことは知れきっている。
また部将のうちにも、諏訪飛騨守とか山本山入とか、その他、旧公方家の遺臣だの、丹波武士と称する土豪なども交じっている。