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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
と思われる。御辺は、御坊塚へいそいで、はや疾く、三左衛門のことばを主君へ伝え給え。それまでは、三左も死を逸まらず、ここにあって、殿軍を構え、主君がお立ち退きの合図を見て後、われら生き残りの二百余名、一手となって、秀吉の陣へ駈け込み、斬り死にして果て申さん所存――と、かように、申しおられました」
「…………」
光秀はなお沈黙していた。
使命を終ると、刑部の影は、急に平たくなった。地に俯っ伏したまま、呼べど答えぬ者になっていた。
光秀は、じっと、床几から見まもっていたが、冷然と与次郎をかえりみて、
「刑部は、深傷を負っていたのか」
「はい」――与次郎は悲涙を眼に溜めていた。
「ことぎれたものとみえるな」
「左様に思われます」
「……与次郎」
と、まったくべつな声がらをもって光秀はふいに訊ねた。
「最前、そちの受け取った使番の報らせは何であったのか」
「今はつつまず申しまする。あれは、筒井順慶の軍勢が、にわかに、洞ヶ嶺を降って、淀方面からお味方の左翼を強襲しに出て来たため、さしもの斎藤利三どのを始め、お味方の諸隊も、踏みこたえる力も尽き、総くずれになったものと、その敗因を報らせて来たものにござります」