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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
瀬兵衛御苦労
御心事を察しると、哭いても哭ききれません」
「いや、敗れたりといえ、その大道をお捨てにならなかったことだけは、ひそかに本懐として死なれたにちがいない。最期の偈がそれを天にさけんでいらっしゃる。……お、時移しておると、また土寇輩が襲せ返して来るだろう。三十郎」
「はッ……」
「わし一人では御始末をする術もなく、あれに取り遺して来たお首級のない屍がある。あれをどこぞ人目に見出されぬ土中へ埋めてお隠し申しあげてくれ」
「余の方々は」
「みな御遺骸を繞って、いさぎよく死に就いた」
「おいいつけの役目をすました後、それがしもどこぞ死所を求めましょう」
「わしもこのお首級を、知恩院にある光忠どのへお渡し申しあげ、その後、身の始末をする所存だ。――では、さらばぞ」
「おさらば」
ふたりは竹林の中の小道で立ち別れた。こぼるる月の斑がきれいであった。
瀬兵衛御苦労
一方、勝龍寺城も、その夜のうちに陥ちた。
ちょうど光秀が小栗栖附近で最期をとげていた時刻である。
山崎、円明寺川の線に、明智勢を撃摧した南軍の堀、中川、高山、蜂屋などの諸部隊は野を吠え、草を掃いて、
「必定、光秀は、あれにこそ在らん」