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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
死にもの狂いをもって驚くべき勇戦を持ちつづけていた。
ここまで、光春を離れず、従いて来ただけでも、その兵は、尋常一様な兵数の質でないことはわかるのである。
――為に。
地の利をしめ、黒煙猛火を味方とし、あまっさえ数倍の兵力をもって、それを喚きつつんでいた堀隊も、却って、少数の敵に、まったく一泡ふかせられた形となった。刻々敵も討ち減らしてはいるが、味方もそれに数倍する死傷者を累々と路上に重ねている有様であった。
「あれが左馬介光春か」
堀秀政は指さしていた。
坂上にある彼の床几場は、燃えさかる町屋の煙のため、すぐ下の戦況すら透視できなかった。
「どれでしょうか」
側に彼をかこんでいる家臣の堀監物や近藤重勝は、眼をこすりながら、秀政の指のさきを見わたしていた。
「あれ、あの白地の陣羽織じゃよ。乗っているのも良い馬らしい」
「オオ、なるほど」
「光春だろう」
「慥とはわかりませぬが」
「光春ならで、あれほどの武者が、部下のうちにいるとは思われぬ。久太郎秀政の前に立たせて不足のない敵だ。どれ……」
いうや否、彼は、傍らの馬へとび乗って、坂下へ駈け降りていた。
堀久太郎秀政は、この年、ちょうど三十歳である。