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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
黒煙の漂い出した障子いちめんに、こまかい血しおの霧が打った。みだるる黒髪の下から最期の息で子の名をよぶ母の声も洩れた。しかしすべては一瞬の震撼に似ていた。刺し交え、刺し交え、おくれる親も子もなかった。――ひとりなお生き残って、やがてそこから廊下へ出て来たのは、長閑斎だけであった。
その頃、大手の城門は、ぱりぱりと響きを立てていた。寄手の勢が破壊にかかり出したのだ。石垣の彼方此方からも、先を争う兵の影がよじ上って来る。
搦手からは火であった。
この方面の火は、さきに城中の者がみずから放った奥曲輪の火とつながって、忽ち半城を蔽うばかりの火勢となった。
「八之丞、清三郎。いちいち弾込めしていては手鈍い。鉄砲を取り代え取り代え、弾のあるかぎり撃て」
光春は矢倉にのぼって、残り少ない左右の者に、なお下知していた。そして自身も、鉄砲を構えて、狭間から筒先下がりに敵兵を狙撃していた。
すでに城兵の大部分を逃散させたあとなので、武器だけは夥しく残っている。一弾放っては、またほかの鉄砲を取って撃ち、使い捨てに撃ちつづけていた。同じ矢倉にいる七、八名の小姓も部将もみなそれに倣って敵に猛射を浴びせた。