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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「いや、それはいけますまい」

すぐ反対の声が出た。云い出したのは秀吉である。

秀吉は、勝家の提議を、まっ向から反駁した。

「何さま、お見立てとしては、宿老のお考えもよろしかろうが」

と、かろく一蹴しておいて、

「筋目から申すなれば、正しく御嫡男信忠様の跡は、三法師様こそ、御相続あるべきところではおざるまいか。国に法あり、家々にもおのずから家法はあること。下々においてすら、かような大事は紊さぬものを、まして」

勝家の面は、朱へ墨をにじませたように、感情をあらわしていた。

「アア待て、筑州」

「いや」

と圧して、秀吉はいうだけを云いつづけた。

「三法師様は、まだ御幼少と、仰せられるであろう。――が、御一門以下、柴田どの始め、宿老諸将がそろうて、お守り立ていたすからには、御幼少とて、何の御不足やあろう。忠勤をもて仰ぐ御方は、何もお年ばえの如何にあるわけではありますまい。――筑前においては、ぜひに、御筋目を正されて、三法師様をこそ、お跡目に仰ぐべきものと信じまする」

勝家は、ぐだっとしたように、懐紙を出して、衿くびの汗を押し拭っていた。大きな暗礁にのしあげたかたちである。