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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「……が、何事もなくて」

秀吉はうなずくのみで、後の二人が小走りになるほど大股な歩みであった。

そしてすでに、外へ出て、助作と佐吉が、供の家中や馬を呼びたてていると、

「羽柴どの羽柴どの」

あわただしく追いかけて来て、空に三日月の見える宵闇の広場に、彼の姿を求めている者があった。

「ここじゃよ。ここじゃよ」

秀吉はもう馬上にあった。

そこで鞍つぼを叩いている音を知って、滝川一益は駈け寄って行った。

「何か」

秀吉は一瞥くれていう。

その容子は、主君が臣下を見るのと、同じであった。

一益は、寄り添って、

「察し入る、察し入る。さだめし今夜は、お腹が立ったであろう。……が、酒のうえのこと。それに、北ノ庄の甥は、あのとおりまだお若い。ゆるしておやり下さるように」

頻りになだめる。

そして、次に告げた。

「既定の事。おわすれあるまいが、明四日の昼、三法師君のお世継御披露の祝事には、ぜひ御参列を欠かされることなきようにと、柴田どのが特に、あなたの立った後ですぐ案じるごとく申されておられた」

「そうか。……うム」

「必ずおわたりあるように」

「わかった」

「くれぐれも、こよいのことは、水にながされよ。