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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

――が、長じて、かつ世の指導的な一方に立って、いかなる逆境や困苦の重囲にも煩わさるるなく、その少時の鍛練を、よく生かして、

即睡即覚

ともいえる悟道に近い妙生を身にもつようになったのは、彼自身がその戦陣軍務の多忙と健康の必要から考え出したところの、ひとつの座右銘から得たものであった。

室町中期頃から、世上の騒乱暗澹たる半面に、心ある武門のあいだには、各※(二の字点、1-2-22)がひそかに、

――われらは、これでいいのか。

という反省がよび起されて、その結果、武家の一門に、或いは、武士個々に、当時の座右銘ともいえる――家憲、武士道訓、或いは、壁書――などというものが大いに行われ始めて、その道義的風興は、戦国期に入って、いよいよ磨かれ競われているのであった。

で、秀吉にも、何がな日常の心養に、そういう座右の師語は幾つか心にあったであろうが、彼がひとりひそかに珍重している座右銘は、むしろ路傍で会ったつまらない旅の禅坊主からふと聞いて忘れ得ないものとなっている――

離

という一字であった。

これが、彼の座右銘ともいえる護符だったのである。

離。はなれる――