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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
山崎の宝寺城から、彼は隔日のように京都へ出向いた。帰っては、工事を督し、出ては中央に政務を見ていた。
皇城の守護も、市政も、地方の経綸も、彼はみずから身をもって任じていた。
本来、清洲会議での決議では、ここの京都政治所の閣臣は、柴田、丹羽、池田、羽柴の四人がひとしく庶政を宰することになっていて、決して、秀吉のみの中央舞台ではあり得ないのであるが、柴田は遠く越前にあって、もっぱら地方的勢力の結集と、岐阜や伊勢やまた、神戸信孝などと何やらの暗躍にせわしく、丹羽は坂本の近くにあっても、これはすでに秀吉に一切を一任のかたちでいるし、池田勝入は軍議ならともかく、庶政とか、公卿づきあいなどは、
(本来、わが才に非ず)
として、名目はあっても、関わらざるを潔しとしているような風であった。
その点では、秀吉は実に器であった。
生れながらの彼の能は、何よりも経綸にあったのである。今なお世人は彼を目するに武将として観ていなかった。
本来、戦は彼の本技ではない。しかし戦は経綸の車軸であることを知っている。いかなる大理想をかざそうと、戦にやぶれては、その大経大綸も一尺として進み出さないことをよく知るところから、彼は、戦に絶対を賭し、ひとたび戦陣を展けば、権化となって、戦いを戦い切るのであった。