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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
清水宗治はときに、四十六歳であった。
持宝院では、秀吉以下、堀尾茂助の帰りを待ちかねていた。
小舟から上がるやいな、茂助は首桶をかかえて、息せわしく登って来た。そして、宗治の切腹を復命し、その首を、秀吉の床几の前に供えた。
「あわれ、よい侍を」
秀吉は惜しんだ。きょうほど深く心を打たれたことはないような容子だった。――が、すぐ、
「恵瓊を迎えにやれ」
と、急き立て、やがてその恵瓊が来るまでの間にと、風呂所にはいって、水を浴び、清衣に着かえ、潔斎して待っていた。
恵瓊が来た。
秀吉はすぐ別間に出て、
「宗治の切腹も相すんだ。この上は誓紙の取り交わしが残されておるのみ。いま潔斎して、起請の一文は約束のごとく認めておいたが、予の筆元を御僧が見とどけ、また、毛利の筆元を見届けるために、こちらからも一名の陣僧をさしつかわすであろう。――まず一読いたすがよい」
と、恵瓊にそれを示した。
読み下してみると、
起請文のこと
一、公儀(信長を称う)に対せられ御身上御理りの儀、われら請取申し候条、いささか以て疎略に存ずべからず候事。
一、申すに及ばず候と雖も、輝元、元春、隆景、深重如在を存ぜず、われら進退にかけて見放し申すまじき事。