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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「案じるな、故人へもここで誓うておく。かならず筑前が育ててみよう。以後は秀吉の養子ともなして」

「ありがとうござる」

一族の忠家は涙をこぼした。岡山城主の直家はすでにこの一月頃病死していたので、幼い遺孤を守り立てて高松へ参陣していた岡山衆の心境は、いとど多感であったのである。

そうした遺臣たちの心をとらえて、この急ぐ途上でありながら秀吉が「養子にする――」と約したこの宇喜多家の幼主こそ、後の宇喜多大納言秀家であった。

このとき秀家はまだ十歳で、現下の旋風にも父の死にもほとんど何らの感傷もうけていないふうだった。秀吉は可愛らしくて堪らないように、

「これへ乗れ」

と、手ずから抱いて陣輿の中へ入れ、自分の膝のあいだに置いて、

「幾歳になるか」

と訊ねたり、

「何が好きか」

と、問うてみたり、また、

「きょうから和子は、この小父さんの養子になったのだぞ。……どうだ、欣しいか。欣しくないか。この小父さんは嫌いか」

などと戯れたりしていた。

その間にも彼はすぐ輿の者へ急げと命じていたのである。だから陣輿は舟のように揺れていた。かくて岡山の城下まで来るうちに、秀吉と少年とはすっかり仲よしになっていた。