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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

一浴

城下には着いたが、城中には入らない予定なので、秀家を輿から降ろし、忠家以下の岡山衆にも別れを告げた。

「ぜひとも、お先手について、御加勢申したいと望む者も少なくございませぬ。二千でも三千でもお召しつれ下さいませ」

忠家の好意にたいして、秀吉はあきらかに断った。

「かたじけないが後も大事だ。万一、毛利家に豹変あるときは、お汝らの力に俟つものが多い。ここの一塁は、毛利への抑えとして、筑前が恃みおくもの。呉々、抜からぬように」

種々策は授けたが、兵力は借らずに、ただ宇喜多家の旗だけを借りて去った。その後から、東へ東へと急ぐ軍馬は、ひッきりなしに城下を通過した。半日以上たっても、騎馬のいななきはなお断続していた。

一浴

六日夜は、沼城に泊まった。夜半ごろから暴風雨となった。すさまじい風雨の声をよそに、秀吉は深更まで、ここを守る宇喜多家の諸将へ、万一の場合の計を授けていた。

眠るも束の間しかない。秀吉は未明の頃から出立を発令して、残る人々へ、

「さらば」

と告げ、きのうは陣輿だったが、今朝は馬上で、風雨の中をもう真ッ先に急いでいた。

この日は七日、福岡の渡しまで来ると、河は出水に激している。