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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
沼城の者が、
(この大雨では、とても御無理でしょう。一日程も御休息あって減水をお待ち遊ばしては)
と引止めたのを、何のと、無碍に急いで来たことなので、秀吉はもとより難儀も覚悟であった。
荷駄と荷駄とを繋ぎ合わせて馬囲いを作り、人と人とは手をつなぎ、或いは槍の柄を握り合いなどして、一陣一陣濁流を渡るのだった。
さきに越えた秀吉は、彼方の水際に床几をすえて、
「急ぐな、あわてるな。心しずかに河越しいたせよ」
と風雨もよそに落着きを見せていた。
「こういう時に、人ひとり取り落すと、五百も三百も損じたようにいわれるものだ。荷物一つ流しても、百荷も二百荷も捨て去りたりと沙汰されよう。かたがた、戦場とちがい、不覚といわれては、いのちも軍器も捨てがいがないぞ。悠々渉れ、悠々と」
高松のあとへ殿軍として残して来た森勘八の一軍も、この頃、追いついて来たし、そのほか遅れた部隊も、続々見えて両岸にむらがった。
森勘八は秀吉の前に来て、あとの模様を報告していた。――味方の引き揚げは六日の未の刻(午後二時)までに全部終了したということ。また、その後も、毛利方の陣営には、追撃に出て来る気配はなく、ぼつぼつ兵力の後退にかかっているらしく思われる、ということなどであった。