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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
「秀勝。これへお坐り」
白湯ひとつ飲むと、秀吉は、すぐ隣室に座をとって休んでいた養子の秀勝を膝近く呼びよせた。
秀勝は、十五歳であった。
信長の第四子として生れ、幼名は於次丸とよばれていた。秀吉の養子となってからも、もう五、六年にはなる。
秀吉が中国出征中は、長浜の城にいて、領下の政治を沙汰していたが、ことしの三月頃、信長の命をうけて、養父秀吉の麾下に参じ、具足始めの式をうけ、児島の城を攻めて、初の戦功をたてたのであった。
「秀勝」
「はい」
「お許の眼元を見ておると、亡き御方が偲ばれてくる。信長公によう似ておられる」
秀吉はしげしげと眺めた。秀勝は、諸将の中で今日この時、何事を養父からいわれるのかと俯向いた。秀吉は眼をうつして傍らにいた堀久太郎秀政と秀勝とを等分に見てからこう云い出した。
「先君御落命の報らせをうけて以来、高松から当地にいたるまで、お許らも見て来た通り、筑前は精進潔斎を守って来たが、ここ尼ヶ崎の地は、すでに敵の明智軍とも指呼の間近にある。――きょうにも、明日にも、いつ敵とまみえて、合戦に及ぶかもわからぬ」
秀勝は丸ッこい眼をあげた。若々しい感情はもうその眼の中に沸る湯となってあふれかけている。