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にほんせいしんしけんきゅう

日本精神史研究

和辻 哲郎

推古時代における仏教受容の仕方について「思想」1922(大正11)年7月<br>仏像の相好についての一考察「思想」1922(大正11)年5月<br>『万葉集』の歌と『古今集』の歌との相違について「思想」1922(大正11)年8月<br>お伽噺としての『竹取物語』「思想」1922(大正11)年11月<br>『枕草紙』について「思想」1922(大正11)年9月<br>『枕草紙』の原典批評についての提案「思想」1922(大正11)年9月<br>『源氏物語』について「思想」1922(大正11)年12月<br>「もののあはれ」について「思想」1922(大正11)年10月<br>歌舞伎劇についての一考察「思想」1922(大正11)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 208,277 字 · 415 页

青空文庫

まず初めに歌に現わされた感情の相違について観察する。

範囲を狭く「春」に限って考えてみると、相違はきわめて明白である。『古今集』の巻頭に置かれたあの有名な、

年の内に春は来にけり一年を去年とや言はむ今年とや言はむ

の歌は、集中の最も愚劣な歌の一つであるが、しかし『古今集』の歌の一つの特性を拡大して見せていると言える。それは、ここに歌われている「春」が、直観的な自然の姿ではなくして暦の上の春であり、歌の動機が暦の知識の上の遊戯に過ぎぬという点に看取される。もとより叙情詩に歌われる春は必ずしも直観的な自然の姿でなくともよい。暦の上の春でもそれが詠嘆さるべき感情を伴なっていさえすればよい。たとえば少年の心が、一夜明けて新しい年になるというあの急激な変化に対して抱く強い驚異の念、あるいは暦の上の春が単なる人為的の区分でなくして何らか実体を持ったもののように感ぜられ、あたかも自然が暦の魔力に支配されているかのようなあの不思議な季節循環の感じ。それらは確かに強い詠嘆に価する。総じて暦なるものが、季節の循環と天体の運行との不思議な関係から生まれたものである以上、暦の知識の上に宇宙の深い理法への測るべからざる驚異の感情が隠されていることは否定し難い。