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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
惣兵衛も外記もそう戒めたが、都留の気持では機会さえあれば目的を決行するつもりだった。然し主計の起居にはまったくその隙がないのである、日はずんずん経ってゆくが、未明から夜半すぎまで、休みなしに書き物を続ける日課には変りがなかった。そしてそのひたむきな、精根を傾注した姿には、単に隙がないばかりでなく、どこかに強く人の心をうつものさえあった。……心をうつといえば着衣の粗末なことも、食事の簡素なことも驚くほどだった、外記の注意で食糧には卵とか魚鳥の肉を添えるようにしていたが、主計は決してそういう物に箸をつけなかった。或るとき、「お味かげんが悪うございましょうか」と訊ねてみた、すると主計は、「いや喰べつけぬものだから」と答えるだけだった。またはじめは飯も白いのを出していたが、麦を入れるようにと云われて麦飯にした、それも「もう少し麦を多く」という注文が幾たびもあって、ついには貧しい百姓でも食うような黒いものになってしまった。何回となく洗っては仕立直したとみえる着物の、袖口のあたりが綻びていたり、ふと娘ごころから、――縫って差上げよう、と思うのだが、主計はぶきような手つきで、然しかなり巧みに自ら縫い繕うのだった。