轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
と喉にからんだような声で答えた、「……たしか、櫟だと存じますが」
「…………」主計はふいに沈黙した。なにか云おうとしたのを急にやめた感じだった。都留は身が竦み、息が止るように思った。こちらへ向けている老人の痩せた背中が、云いようのない大きな圧力をもって、ぐんぐんこちらへのしかかって来るようだった。都留は手を下げ、頭を垂れた。双の膝頭が音を立てるかと思うほど震えていた。
「そうか、あれが櫟か」主計はやがてしずかな声でそう呟いた、「……樹もよく見るし、櫟という名も知っていながら、この樹が櫟だということは、この年になるまで知らずに過して来た、この年になるまで、……ばかなことだ」
終りのひと言は自ら嘲るような調子だった、それがするどく都留の印象に残った。
季節が霜月にはいると、この屋敷へしばしば客が訪れるようになった。来るのは三人のきまった人物で、時刻はたいてい昏れがたか夜である。人眼を忍ぶように奥の間へはいり、なにかひそかに主計と語っては帰る。短い時間のこともあるが、明けがた近くになる例も珍しくなかった。……都留はそのなかの一人に見覚えがあった、鈴木主馬といって目付役を勤め、国許では俊敏の名の高い人である。