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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

「今になって弱いことを申す」主計のしずかな声がそれに答えた、「……そこもとにできなくて誰にできるか、そんな弱音は聞きたくない、事はもう定まっているのだ」

「然しここまでやる必要があるでしょうか、御老職に伺います。果してここまでやる必要があるとお思いですか」

声が途絶えた。主馬に問いかけられた水野外記はなかなか返辞をしなかった、然しやがて主計に向ってこう云うのが聞えた。

「主馬の申すことは尤もだと思います、これではまるで自殺をするも同様ではございませんか」

「そうです自殺です」主馬が追いかけるように云った、「……こなたさまはご自分でご自分を殺そうとしておいでなさる、これは御裁きではございません」

「いやこれが裁きだ」主計の声はやはりしずかだった、「……進藤主計を裁くにはここまでやる必要があるのだ、彼を容赦してはならぬ、有ゆる行蔵を糾明し、為した事の隅ずみを剔抉して徹底的に断罪しなければならぬのだ」

都留にはこれらの言葉の意味がわからなかった、主計が自ら自分を「彼」と呼び、「容赦してはならぬ」と云う。いったいかれらはなにを争っているのだろう。謎を聞くような気持で、都留は知らず識らず襖際へすり寄っていた。