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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页

青空文庫

と西秋泰二郎が三人に云った。孝也のほうは見ないし、孝也の言葉も信じていないような調子だった、「さあ続けよう」と泰二郎は云った、「こんどは庄司の番だ、おれは大丈夫だから心配するな」

そして木剣を取り直した。

その夜、泰二郎は桂と会った。二人には七日に一度ずつ会う機会があった。七日に一度、孝也が城下町へ用事にゆくのである、稽古が終ったあと、大抵は四時ごろにでかけて、帰るのは九時過ぎであった。その日も孝也がでかけたので、日が昏れてから二人は会った。屋敷の北の隅に「茂庭明神」といって氏の神を祀った祠がある。まわりを杉林で囲まれているし、ふだんは人の近寄ることがないので、桂がそこを会う場所に選んだのであった。

その宵、桂は化粧をしていた。四月の暖かい宵の空気が、彼女のあまい香料で匂った。

「どうでした」と泰二郎がまず訊いた、「うまくつきとめましたか」

「だめでしたわ」

「どんなぐあいだったんです」

桂は話した。これまで三度、彼女は孝也のゆく先をつきとめようとした。きちんと七日に一度ずつ、城下町へなにをしにゆくのか、どんな用があるのかを知りたかった。それで下僕の弥六にあとを跟けさせたのであるが、孝也は街道口で馬を借り、馬に乗ってでかけてゆくという。