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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう

本州横断 癇癪徒歩旅行

押川 春浪

「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,749 字 · 45 页

青空文庫

(一六)拝殿の一夜

一人でこんな場所へ来てこんな恐ろしい面を見たら、キャッと叫んで逃げ出すかも知れぬが、一行は大勢なのでチットも驚かない。

「ハハァ、天狗様が祀ってあるのだな、これは御挨拶を申さずばなるまい」と、そこで髯将軍は恭しく脱帽三拝し、出鱈目の祭文を真面目臭って読み上げる。その文言に曰く、

「コレ、天狗殿、吾輩は東京天狗倶楽部の一人、吉岡信敬なり。敢て閣下の子分に非ずと雖も、また多少の因縁なきにしもあらず。今夜ここに泊る。もし猛獣毒蛇来らば、その眼玉で睨み殺して賜われ。猛獣ならばその皮は吾輩有難く頂戴する。終りッ!」

スルト側から水戸の川又子、俳号を五茶と申す、宗匠気取りで、

ああら天狗一夜の宿を貸し給え

と駄句れば、

「アーメン」と誰か混ぜ返した者がある。

「コラ、そんな事をいうと、天狗様の罰が当るぞ」と、未醒子は眼を剥く。先生の相貌、羅漢に似たる為か、アーメンはよくよく嫌いと見えたり。

(一六)拝殿の一夜

サア天狗様へ御挨拶も済んだというので、一同は奥殿の片隅を拝借し、多くはビショビショに濡れたまま、雑嚢や新しい草鞋を枕に横わったが、なかなか以て眠られる次第ではない。