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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

「上級生の命令をきかんか! ようし!」

狐は、そう叫んで指揮台を飛びおりると、新入生の列を乱暴に押しわけて、次郎に近づいた。そして、いきなり彼の襟首をつかみ、引きずるようにして、彼を指揮台のまえにつれて行った。すると、ほかの五年生が四五名、ぞろぞろとそのまわりによって来た。その中には、最初演説した生徒や、獰猛な山犬の顔は見えなかった。しかし、その代り、三つボタンが恐ろしい眼をして彼を見据えていた。

「名は何というんだ。」

狐がたずねた。

「本田次郎。」

次郎はぶっきらぼうに答えた。

「ふむ、生意気そうだ。」

三つボタンがはたから口を出した。

「貴様はさっき俺を睨んでいたな。」

狐が今度はうす笑いしながら言った。

「見てたんです。」

「何? 見ていた!」

「ええ、見てたんです。地べたを見るのは無礼だって言うから、顔を見てたんです。」

「理窟を言うな!」

鉄拳が同時に次郎の頬に飛んで来た。しかし、次郎の両手が狐の顔に飛びかかったのも、ほとんどそれと同時だった。

それからあと、次郎は何が何やらわからなかった。ただ真っ黒なものが周囲をとりかこみ、そこから手や足が何本も出て、自分のからだを前後左右にはねとばしているような感じだった。