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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
暮色がふかまり、電燈の光がそれに比例して次第に明るく感じられ出したころには、彼らの腹も相当ふくらんで来た。腹がふくらんで来ると、もうたべることばかりには専念していなかった。あちらこちらに雑談の花が咲き、警句がとび、笑声が湧いた。一時間まえに、次郎の思いつきで、裏手の廂に梯子をかけ、三十人もの生徒たちが、足音をしのばせてこの二階にはいりこんだ時の光景や、そのまえに、朝倉先生の裸姿を橋の下に見つけて、大あわてで水にもぐりこんだり、逃げ出したりした時の光景やが、彼らの断片語によって次第に浮彫にされて来た。こうした場合の、頭のいい青年の断片語というものは、ちょうどすぐれた彫刻家の鑿みたような役目をするものなのである。
朝倉先生夫妻も、俊亮も、腹をかかえて笑った。そして三人の笑いごえがきこえるたびごとに、彼らの興味は、しだいに食うことよりも話すことの方にうつって行くらしかった。
本来ならば、憤激にはじまり憤激に終るべき性質のこの集まりが、こうした愉快な空気の中でその序幕を切ったということは、誰の頭にも計画されていなかった一つの偶然であったかも知れない。しかし、その偶然も、幾羽かの鶏の犠牲なくしては生まれなかったとすれば、その鶏を犠牲にした本田一家の、とりわけ俊亮の智恵は、たといそれが無意識の智恵であり、それも一つ