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すいちゅうのきゅうでん
水中の宮殿
野村 胡堂
「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页
銅板は盗まれた――が残るフィルム
「翠川氏が? 何と言う馬鹿なことに手を出したものだ」
唐崎荘之介はプリプリ怒りましたが、翠川健太郎は有名な実業家でもあり、それに健一の言うことに間違が無かったので、どうすることも出来ません。
「いずれ改めて談判に来るぞ、馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「どうぞ」
健一を尻目に秘書を促して荒々しく引揚げました。
銅板は盗まれた――が残るフィルム
「お兄様、銅板の絵図面はどこ?」
「六畳の押入にある筈だ」
「それが無いんです」と燿子。
「えッ」
健一も綾子も、一団になって六畳へ駆け込みました、丸太を枠にした窓の硝子戸は一杯に開いて、戸棚も開け放したまま、中の銅板は影も形もありません。
「やられたッ」
健一は、いきなり開いた窓から飛降りましたが、まだ月の出には早い林は、塗り潰したような闇で、一寸先の見透もつきません。
泥棒はみんなが次の間で夕飯をやっている隙を狙って、窓から入ったものでしょう。
「足跡があるでしょう」
燿子がコードを長くして差出した電灯の光で見ると、窓の下の柔らかい土の上には、健一の大きいブルドッグ型の靴跡の外に、先の尖った華奢な靴跡が、深々と印されているではありませんか。