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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

こう云ったが、やはり成信は食べようとしない。どうしたんだ、と、男は訝かしげにこちらを見まもった。それからふいに肩をいからせ、

「そうか、おめえこの米や味噌をおれが盗んで来たと思ってるんだな、冗談じゃあねえ、そんなべらぼうな、おめえ、とんでもねえこった」

本気に怒った顔で口をとがらした。

「おらあ身銭を出して、この米も味噌もちゃんと買って来たんだぜ、嘘だと思うならいってきいてみねえ、この下の柘榴の花の咲いている百姓家だ、石臼みてえに肥えたかみさんからちゃんと買って来たんだから」

「いや勘弁して呉れ、おれが悪かった、それでは馳走になる」

ほっとして成信は茶碗を持った。

終ると男は膳をさげ、厨口から出ていって、向うの流れでよごれものを洗うらしい。成信は風とおしのよい小書院へいって横になり、ぼんやり庭の樹立を眺めやった。――まもなく男がやって来た。手を拭きながらあたりを見まわし、さてと云ったが、なにか迷うようにこちらを見て、ぶしょう鬚の伸びた顎を撫でたり、ぼんのくぼを掻いたりした。

「じあこれでおらあゆくが、おめえまだずっと此処にいるのか」

「――まあ、そうだ」