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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

彼は無表情に言った。

「では、庭の縁側の方に廻りましょう」

「縁側に?」

幸太郎はとがめ立てるような声を出した。戦前幸太郎は栄介の家を訪ねるのに、玄関をあけて、案内も乞わず、ぬっと座敷に通ったものだ。本家の家長だからである。

「そうですよ。縁側です」

幸太郎の気持は判っていたが、彼は何か押しつぶすような姿勢で、幸太郎に背を向けて、庭に足を踏み入れた。狭い庭にはツツジだけが貧しい花をつけ、幹の細い樹が五、六本立っている。日の当らぬ部分にはゼニ苔がべったりとはびこっていた。幸太郎は彼に続いて、すり減った靴を沓脱石に脱ぎ、渋々という態度で上って来た。妻の美加子は留守で、仮面のように表情に動きがない家政婦が、紅茶を運んで来た。

紅茶を飲む間、二人は黙っていた。すすり終ると、幸太郎がおもむろに口を開いた。

「当分ここに厄介にならせてもらうよ」

昔ながらの彼の横柄さではなく、取ってつけたような押しつけがましさがあった。

その前の年の秋、幸太郎から手紙がやって来た。どこで栄介の住所を調べたのか判らない。巻紙に書いた筆の字で、達筆過ぎて判読出来ない部分すらある。最後に『矢木幸太郎拝』