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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

と署名したあとにも、二伸があり、三拝もつけ加えてある。商売はやめて現在は田舎の町に隠栖していること、自分ももう齢をとったこと、佗しいから東京に出たいがその節はよろしく頼むこと、そんな内容のものであった。巻紙の長さに比べて内容はかんたんで、あとは昔はどうこうだったとか、今生きている感懐がくどくどとはさまっている。老いて来ると、人間はとかく長い手紙を書きたがる。というより、書き始めると、何か書き忘れた気がして、つい止め処がなくなるのであろう。栄介は指折り数えて幸太郎の年齢を考えたが、うまく計算出来なかった。手紙には齢をとったとあったが、何歳になったとは書いてなかった。

「もう七十何歳かになったんだろう」

そう思いながら栄介はその手紙を、机の引出しに放り込んだ。かすかな不安と脅威が彼の胸に揺れ動いたが、返事を書こうという意慾は全然湧かなかった。書こうにも書くことがなかった。で、返事は出さなかった。

それから新年になって年賀状が来た。今年は上京の予定だから貴君ら御兄弟に会えるのをたのしみにしています、とつけ加えてあった。それも黙殺することにした。前の手紙の返事を出さないのに、賀状の返礼をするのはおかしい、と栄介は考えたのだが、その自分の考えもおかしいと、彼は同時に気付いていた。