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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

汽車は今着いたばかりのところらしく、荷物を持った旅姿の人や出迎えの連中でごったがえしていた。栄介は体を斜めにして、人波を逆にしごいて、のろのろと歩いた。歩廊を三分の一ほど歩いた時、栄介はそれらしき人物を見つけた。その人物は二人の老人と三十前後の和服の女に取りかこまれていた。その人物は二人の老人を相手に、すこし亢奮した面もちで話を交わしていた。

「あれが幸太郎かな?」

栄介の脳裡に残っている幸太郎は、着物をゆったりと着こなして、背筋をしゃんと伸ばした小肥りの男であった。今三人の男女にかこまれている老人は、洋服を着て、背中が猫背に曲っている。洋服は古い型だったが、保存がいいのか古風ながら折目立っていた。かぶっている鳥打帽子は新品である。それにくらべて、靴がひどくくたびれていた。何年もそればかり穿いたらしく、底も踵も斜めにすり減って、表面の黒皮の色も褪せていた。彼はとっさの間にそれを見てとった。きちんとしているようで妙にちぐはぐな、要するに典型的な田舎の爺さんの恰好であった。

「どうもこれが幸伯父らしいな」

二町ほどの距離に近づき、柱に半身をかくして、栄介はその一群を観察していた。