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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「わしが詣りたいのは、多摩の御陵だ」

栄介は返事をしなかった。言葉の行違いがあったにしろ、折角ここまで来たのだから、ついでに弟夫婦や甥たちの骨の収まった墓所を見ようという気を、なぜ起さないのか。少し経って栄介は手を伸ばして、乱暴に扉をばたんとしめた。幸太郎を無視して、運転の青年に話しかけた。

「君。多摩御陵の場所、知ってるかね?」

「ちょっと調べて見ます」

青年は地図を取出した。

「あ。こりゃ相当遠いな。先生。八王子の先ですよ」

「すまないけれど、そこまで行って呉れないか」

「はい」

エンジンの音とともに車は動き出し、方向を変えた。そして風の強い街衢を一時間近く走り続けた。その間栄介は腕組みをしたまま、一言も口をきかなかった。やがて車は銀杏並木の道を走っていた。途中で右折すると、並木は欅に変る。欅の巨木は医書の神経図のような形に、梢を空に散らしていた。青年が言った。

「この突当りが御陵です」

「そうか。すこし徐行して呉れ」

車は速力をゆるめた。どぶ川にかかった古ぼけた橋名は『南浅川橋』と読めた。左手は低く運動場となり、野球をしている人々の動きが見えた。運動場は疎林に区切られ、その彼方に丘や山がかすんでいる。