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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

中を真空にするためにこんなトゲが出来るのだと、栄介はいつか福次郎に教えられたことがある。そのために、頭にぶっつけないように、電球は必要以上に高く吊られていた。暗かったのはそのせいでもあった。

「お母さん。お母さん」

栄介は泣きじゃくりながら、子供心に、おれは今おやじを裏切りつつある、という風なことを、心の中でかすかに感じていた。福次郎は散乱した食器を前にして、一言も口をきかず、欝然としてコップ酒を傾けていた。その情景の記憶は、それで途切れる。

おそらくそのいさかいの原因は、他愛もないものだったのだろう。栄介はそう考える。結局母親は実家に戻らなかったからだ。戻ったとすれば、その記憶が残っていない筈がない。しかしその情景は、かなり長い間、彼の心に傷痕を残した。

(お母さんはおれよりも竜兄さんの方を可愛がっている。おれなんかはお母さんにあまり必要でないのだ)

父親への裏切りという罪悪感も、そこにあった。しかし今の栄介には、別のやり切れない疑問が、その情景に重なって来るのである。

その竜介は中学校を卒業して、上級学校の受験に再度失敗した。ぶらぶらしている中に、思想的に赤化した。