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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

といって断られたのもこの時分のことである。

ある日『小僧をひとり世話してほしいんだが……』と翁町二丁目の大島という活版屋の主人が店を訪れた。店番をしていた私は『へい、ちょうどよい男がおりますから、すぐさしむけます』と答えながら、そっと奥をのぞくと主人は昼寝の最中である。そのままこっそり口入屋を抜け出し、聞いておいた大島活版店に足を向けた。

『ずいぶん早いじゃないか。それで当人を連れてきてくれたかい?』

『いえ、そのちょうどよい男とは私のことなんで……』

あっけにとられている主人に横浜へきてからの事情をそっくりうちあけたが、私の率直な言い方が気に入ったのか、すぐ住込みを許された。しかしここも長くは続かなかった。インキにまみれて働くのは不満ではないが、輝かしい成功を夢見る自分がこんなところに埋もれて暮すのはたいへんな道草を食っているような気がし始めたのである。

出入りの廃品回収業者に『もう少し給料のええとこないやろうか?』と持ちかけると『そうだな。月三円出すといってる中華料理屋があるが、行ってみるかい』

月給三円といえば飛び切り上等なので、私は早速承諾した。