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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

心痛むお雪の思い出

借金で首が回らず、ついに顔を上げて町を歩くのさえ気がとがめ出した。妙なもので、広いはずの世間がまるきり狭く思えるのである。

私は考えた。『たとえ雑草でもいい、もっと大地に根を下ろそう』と。ここで身を転じ、石炭屋よりも、地道な商売を選んでまじめにやろう、という気になった。そこで割合続いた石炭屋もこれで打切る決心もついた。私は二十三歳。そのころ私は、いまでも心に残るお雪という女と知り合った。

心痛むお雪の思い出

お雪はぽっちゃりとしたかわいい娘だった。人力車の製造販売をやっている稲葉という人の養女で、私より二つ三つ年下の二十前後だったろう。私は三味線を習いに通うお雪とよく会った。そしていつとはなしに、あみだ池の「ぼんや」で人目を避けてしのび会う仲となっていた。「ぼんや」というのは、玄関をはいるとすぐ二階へ上がる階段がついていて、二階の座敷の壁には小さな穴があいている。二人連れが上がると穴から盆に乗せたお茶が出され、お客はお休み代として二十銭を盆に置く仕組みになっている。いまの連込み宿の元祖みたいなものだが、顔を見られることもなく、なかなかいいものだった。