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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

その店の名前は聘珍楼といって、ごてごてと色看板が並んでいる南京町の中にあった。

『インヤホー・パッセー』なんの意味かわからないが、二階の客の勘定を下へ伝えるときに聘珍楼の主人はこうどなる。ここの主人は広東人だった。中華料理屋の店は活気があるが全く騒々しい。日本女の仲居は二、三人いたが、ほかに日本人といえば私だけだった。中国人はみんな弁髪で、生活は彼らと同じようにさせられた。

私の仕事は出前持ちに皿洗いぐらいのものだったが、食事はみんな客の残り物を食わされた。ここを教えてくれた廃品回収業者の話では月給は三円のはずだったのに、二円五十銭しかくれない。そのうえ、ふとんが賃借りなので、手元には二円しか残らなかった。

中国人は日に二食である。これは発育ざかりの私にはこたえた。一日中追い回されるので腹の減ることおびただしい。そこで目をつけたのは中国人の寝ているベッドの下に置いてある梅酒や老酒のかめである。

「チャー、ポー、ファン」。中国人たちはケンを打って、日本とは反対に勝った方が酒を飲む。しかし夜半ともなれば、南京町の灯も消え、家人もようやく寝静まる。そんなころを見はからって私はそっと起き出してかめの中のしゃくに手をかける。