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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
しかし住みなれた大阪はやはり恋しい。私たちはまもなく京都を引き払って大阪へ帰ってきた。大阪へ帰ったものの、私たちはまず食わねばならなかった。とにかく幸町一丁目の桜川の川っぷちにささやかな家を構えたが、お雪と一つのパンを分け合って食べる貧しさである。食うに困ったあげく、住吉橋の中川末吉という知合いの人の世話で雑穀商の仲間入りをさせてもらった。まぐさ屋もはじめ、かたわら酒、しょう油も商ったりした。まぐさは夏の暑い盛りでも、お雪が後押しもする荷車を引いて天下茶屋の牧場へ売りにいった。地道な生活だった。
ある日、郷里で県会議員をやっている兄が、山高帽などをかぶり、大きな顔をしてやってきた。弟の家に泊まって大阪見物を、とでもいうつもりだったのだろう。いろいろ話をしているうちに食事どきになった。『おい、飯たけ!』私がいうと、お雪はこっそり障子のかげから、米びつをふって底をみせた。からっぽなのである。『飯たけ!』私はそしらぬ顔をしてどなると、お雪はやがて外へ出ていった気配である。やがて帰ってきたときには米の一升も袋に包んだのを持っている。あとできくと、髪の道具を質において米を買ってきたという。