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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
あてもなく踏む異郷の土
お雪はそんな女だった。
けれどこうした無理な生活がたたったのだろう。お雪は病気がちで、赤手拭にある病院に通っていたが、とうとう寝込んでしまった。金はなし、女房に寝込まれ、私は意気消沈、地道いっぽうの仕事にもあき、まぐさ屋もわずか数ヵ月で廃業である。時代は明治三十八年、日露戦争も終りを告げたころである。世間はさわがしく、東京では日比谷原頭の焼打ち事件、神戸では伊藤公の銅像を倒し、その首になわをかけてひきずり回す騒ぎもあった。民族の青春時代の、若々しい怒りの爆発だったのかもしれない。
おりもおり、日露の役に出征していた次兄が戦傷がもとで病死、同年輩の知人が常陸丸で戦死したことなどをきくと、私の若い血も躍り始めた。『そうだ! 満州へでも行ってひと旗あげてやろう』と思い立った。身を捨ててこそ浮ぶ瀬もある。だが病気のお雪に『きっと成功して迎えにいく』と因果を含め、実家に帰すのはやはりつらかった。自分をはげまし、心を鬼にした。しかしこれがお雪との最後の別れとなった。幸福にしてやれなかっただけに、いまでも心に残るお雪だった。
あてもなく踏む異郷の土
いまから思えば全く無茶である。